「全国旅行支援」をすぐにでも始めるべきワケ 次に起こる”ホテル倒産ラッシュ”と”地域産業の崩壊”【コラム】

羽田空港第1ターミナル・北ウイング閉鎖

今、旅行支援が無ければ旅行産業だけでなく地域産業の崩壊も加速するだろう。地方において旅行者が落としたお金が二次的三次的に落ちていくシャワー効果、乗数効果で上記の経済効果は数倍になる。現に、観光地を有していた地方都市では、コンビニ、タクシー事業者、ガソリンスタンド、スーパーに卸す食品加工会社など生活に密着していた業種が次々廃業している。住民だけではこれらの業種は維持できなかったからだ。これらも含めた55.8兆円もの生産波及効果(同)を取り戻すために、その川上に対して投資するのが旅行支援のはずだ。観光需要を回復させ、観光のサプライチェーンを維持するためには、旅行に行ける人にコロナ前の1.5倍旅行してもらう必要がある。そのための支援が必要なのだ。もちろんインバウンドと団体旅行の回復に対する政策も並行して必須だろう。

「全国旅行支援」の延期の影響は、目先の営業だけではなく経営そのものにも大きなインパクトを与える。このままでは金融問題が一気に表面化するだろう。観光以外の他業種では、物価高による駆け込み消費マインドの影響を受けたり、観光消費に使われなかったお金が耐久消費財に回ったりしたことでプラスに転じているケースが多い。その中で観光、運輸など一部の業種だけが相変わらず国によるセルフ経済制裁状態だ。

とはいえ観光業の中も千差万別の状態で、団体客の構成が高かった観光地や宿泊施設はまだまだ休業が発生する状態なのに対し、大都市近郊のショッピング型、屋外レジャー型の施設は活況を取り戻しており、以前のように「みんな平等に苦しい」訳ではない。そのような状況下で、2年前に融資を受けた観光事業者はいくら苦しくても特別に扱われる訳ではなく、返済がスタートするか、一般の条件変更ルールに基づいて返済猶予を個別に金融機関に交渉している状況だ。しかし、売上がコロナ前に戻った事業者であってもコロナ融資を返済できる余力は無い。国から金融機関に対して現状に対応した特例措置などは示されていないため、金融機関も企業としてコロナ前のルール通りの厳しい対応を取らざるを得ない。追加融資を頼めないのは当たり前、各種補助金を使いたくとも自己負担分が出せないので諦めざるを得ない、雇用調整助成金もあるが社会保険料などの負担分が既に看過できないほど圧迫している上、人不足も同時発生しているため平日は人余り、休前日は人不足で満室にすることができない。今後の需要が不安定なため解雇も採用もできない。解決の糸口が見いだせない事業者が多く存在する。

もちろん金融機関にその状況が完全に理解できるはずもなく、将来像の見えない企業、経営が不安定な企業と判断されてしまうのでますます関係は悪化していく。これも元を正せば国の観光業再生に対するロードマップが示されていないためだ。政府がじっくり検討している間に今度こそ本当に倒産廃業のクライシスが始まるだろう。この数か月がきっかけとなり日本の観光の息の根を止めてしまう可能性すらある。

国民が政府に慎重な判断を望んできたのも事実だろう。しかし、それを素直に実行し続けたことにより、「羹に懲りて膾を吹く」状況に陥りつつある。そのことが海外からの信用やお金を捨ててしまう結果を招き、ブーメランのように国民に生活苦を押し付ける構図になってしまった可能性も捨てきれない。せっかく旅行・観光の魅力度ランキングで1位になったにもかかわらず(世界経済フォーラム)、このままではいずれ観光立国という旗印を取り下げることになるだろう。「決断と実行」をスローガンに参院選に勝利した政権与党の動きをこれまで以上に注視する必要がある。

最後に、安倍晋三元総理大臣の逝去にあたり、謹んで哀悼の意を表し、心よりご冥福をお祈り申し上げます。安倍元総理におかれましては、観光立国の旗手として、法整備や外交を含めた日本の観光力の増強にご尽力いただきました。その数々のご功績に深く敬意を表します。

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