「全国旅行支援」をすぐにでも始めるべきワケ 次に起こる”ホテル倒産ラッシュ”と”地域産業の崩壊”【コラム】

事業者が最も落胆したのは、選挙期間中の感染者数の再拡大に伴い、15日から開始と予想されていた観光業支援のための「全国旅行支援」も延期の可能性が増したことだ。「7月上旬に開始」とのスケジュールは、選挙の争点になることを避けた狙いもあるのだろうと多くの人が感じ取っていたはずだ。この数か月は国民がコロナ前の日常を取り戻そうと、ようやく動き始めた時期だ。学校行事や地域イベントも久しぶりにフルスペックで行われ始めたことで安堵する声も多く聞こえた。外食や日帰り旅行の回数も増えたが、遠距離の旅行だけは控えられていた。その原因は「そろそろGo To トラベルが復活するのではないか」という期待感から来る買い控えと、まだまだ厳しい世間の目だ。今から思えばGo To トラベルの再開は4月や5月からでも問題なかったはずだ。ゴールデンウィークさえ除外すれば反対する人は少なかっただろう。タイミングを逃したことで更に先が読めなくなったことで、「参院選さえ終われば何とかなる」と耐えてきた事業者はいたたまれない状況だ。

現在の県民割との最大の違いは「全国どこでも行ける」こと、以前のGo To トラベルとの違いは「都道府県ごとに予算をつけ、運用を知事が決められること」なので、本来なら感染拡大状況に応じて国がスイッチをオンオフする必要はないのだが、延期の方向性は一部の強硬な慎重派に配慮した形だろう。通勤通学や社会機能を維持した状態で、旅行のみを不活性化することと感染拡大の間にはもはや何の関係も無いのだが、もうそのような理屈で物事を決めていく空気は存在しないのかもしれない。県境を越えて都会に通勤して同僚と飲食する毎日を送ることは問題なく、家族で県境を越えて宿泊と飲食をすることは不謹慎という、2年前の歪んだイメージがまだ残っているということなのかもしれない。いまだに必ず聞こえるのは「Go To トラベルが無くても旅行する人は勝手にするから支援は不要」「特定業界の支援はおかしい」などの声だ。恐らくこのコラムに対しても同様のコメントがぶら下がるはずだ。Go To トラベルの意義について主張し続けていた筆者にもいまだに中傷や脅迫が絶えない。

その上で上記のような批判に再反論するが、まず、旅行支援は国家財政を傷めないどころかむしろ好転させている。1万円の国費補助をきっかけに、旅行者は旅行前後を含め5万円以上の出費をしているとすると単純に5,000円以上の消費税が国庫に返納される。サービス業の雇用維持には一般的に売上の3割の人件費が必要となるが5万円の消費に対して1.5万円の雇用が生まれ、今でも各事業者が申請している雇用調整助成金がそれだけ少なくなる。これだけで1万円の補助に対して2万円の財政改善効果だ。旅行支援により時間と金銭に余裕を持つ人たちがホワイトナイトとなって経済を救うのがこの補助金の本質である。

それをもって金持ち優遇ではないかと批判する人もいるが、電気自動車(EV)を買えば最大80万円もらえる補助金も元を正せばリーマンショック以降の自動車産業とその下に連なるあらゆる産業の救済のために始まったエコカー補助金から続いているものであり、効果があるからこそ名称と対象を変えつつ14年間も継続しているのだが、新車を買える一部の金持ちのための補助金だと非難する声は聞こえない。

また、観光による経済効果の18.4%がインバウンドによるものだった(2019年観光庁)。加えて、旅行形態の17.5%を占めていた国内ツアーや団体旅行の回復はまだまだ先になる。これらの復活が無ければ、今旅行に行きたい人が自由に出かけたとしてもコロナ前の3分の2にしかならない。

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