新型コロナに”機内感染”? クラスター対策班資料からヒントを探す【コラム】

新型コロナウイルスに、”機内感染”したことが疑われる事例が話題になっている。

8月3日の札幌/千歳発東京/成田着の航空機内にて、飛行機の前後の席に座っていた乗客が感染していたというものだ。本誌編集部が千葉県に確認したところ、搭乗した航空機の航空会社や便名は公表しないとしている。なお、同日にはピーチ、ジェットスター・ジャパンの2社が同路線を運航している。

感染者同士は会話をせず、面識もなかった。同じ列や前後2列の搭乗者を中心に濃厚接触者28名を指定し、他の自治体と連携を取りながら検査を進めているとしている。千葉県は、「航空機内で感染が広まったとは断定できない」としているが、航空機内で感染が広がった可能性も排除せずに調査を進めているという。

カタール航空(エアバスA350-1000型機)

同じ航空便で複数の乗客が新型コロナウイルスに感染された例はほかにも確認されている。ギリシャ・アテネ着のカタール航空機では、同じ便に搭乗していた12人から新型コロナウイルスの陽性反応があり、乗客全員が隔離された。この12人の内訳は、ギリシャへの居住許可を得ているパキスタン国籍者9人、オーストラリアから渡航したギリシャ国籍者2人、ギリシャと日本人の家族の日本国籍者1人で、機内で感染した可能性が高いとされている。

これらの事例によって、飛行機が危険だ、市中感染が蔓延しているなどと叫ぶのは、根拠がなく時期尚早だろう。一方で、同じような事例は新型コロナウイルスの感染が拡大する前からあり、厚生労働省に設置された、国立感染症研究所の職員らによるクラスター対策班がまとめた資料にも記載されている。今回のコラムでは「飛行機内での感染」について取り上げていく。

「バスツアークラスター」

バスツアークラスター(国立感染症研究所 クラスター対策班)

資料内のいくつかの事例の中で取り上げられているこの「バスツアークラスター」。中国・武漢市から観光客が訪れていた時期で、新型コロナウイルスの感染が本格的に国内には蔓延していなかった今年初頭の事例だ。

この事例の特徴は、発症していた運転手はマスクを原則着用していたにもかかわらず、長時間行動をともにしたバスガイドが感染したことだ。マスク未着用で、マスク着用の感染者と短時間の会話を数日行ったり、マスク着用の感染者の後ろに長時間座ることで感染したことが分かった。

感染している場合、マスクを着用していても周りの人に感染させるリスクがある。昨今は航空機に搭乗するときなどほぼ全員がマスクをするなど、リスクを低減する取り組みが広がっているとはいえ、感染者と同一空間を共有する場合、感染のリスクがある。”機内感染”が疑われる事例は、このことを再認識させたにすぎない。

他のクラスター事例から学べる点も

他のクラスター事例から得られる知見もある。資料内で注意すべき点のみ抜粋すると、

カラオケクラスター

昼カラオケクラスター

「マスクを着用・長時間利用を回避・有症状時は店舗への出入りを控える」を徹底してください

職場会議クラスター

職場会議クラスター

Web会議等が勧められるが、対面の会議を開催する場合は「換気の徹底・十分に間隔をとる・マスクを着用」に十分留意してください

スポーツジム関連クラスター

スポーツジムクラスター

密になり易い場所では「換気の徹底・マスクの着用・長時間利用を回避」してください

となっている。これらのことは対策としてすでに声高に叫ばれていることばかりだ。

航空機に搭載されている高性能「HEPAフィルター」

航空機に搭載されている高性能「HEPAフィルター」

航空機内には外気を取り込み、常に換気を行っており、換気がない「密」な空間ではない。しかし、航空機をはじめとする公共交通機関では、「十分に間隔をとる」「長時間利用を回避」などの対策が取りづらい場合もある。

繰り返して述べるが、これらのことを踏まえても「飛行機が危険だ、市中感染が蔓延している」などと主張する根拠にはなり得ない。

しかし、感染者と同一空間にいる場合もあり、リスクを完全にゼロにすることも難しい。日本国内の各空港ではサーモグラフィーによって乗客の体温測定が行われているが、完全に感染を抑止することが難しいのは明らかだ。

成田空港

結局は、通勤時の鉄道やバスなどと同様、旅行での公共交通機関の利用や、施設の滞在においてある程度のリスクがあることを「正しく」認識し、各個人で低いリスクの行動をとることが、このコロナ禍の中で、旅行を含む社会生活を継続するために必要なことになりつつあるのだろう。