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JR東日本がイギリスで”駅ナカ自販機ビジネス”に参入したワケ 600円の桃ジュースが人気、セット購入で割引も?【コラム】
日本では、いつでもどこでも自動販売機で手軽に飲み物が買えます。しかし、イギリスをはじめとする欧州では、自動販売機を置いてもすぐに壊されたり、商品や現金を盗まれたりして、まともに使えるマシンがあまりないという状況が続いてきました。
そんな状況ながら、JR東日本はこのほど、イギリスの自動販売機運営会社を買収しました。今回の買収にはいったいどんな背景があるのか。同社のロンドン事務所に伺い、話を聞きました。
JR東日本は駅ナカの自動販売機を中心に、飲料総合ブランド「acure(アキュア)」を展開しています。同社管内の駅でacureのマークがついた自動販売機を見かけます。JR東日本はロンドンで2019年以降、acureブランドと同系色のデジタル自動販売機50台を現地で準備し、イギリス国内の鉄道駅や駐車場などに設置。需要やオペレーションの方法について見極めを進めていました。そして“事業のポテンシャルを確認できた”として今年6月、同社ロンドン事務所内に現地法人JR東日本英国事業開発(JRE Business Development UK)を設立しました。
JR東日本がイギリスで準備した自動販売機50台は、既存の欧州水準のマシンとは別格ともいえる面構え。前面全面が液晶パネルでタッチして商品を選べるだけでなく、現在の天気や交通情報が流れるなど、日本の自動販売機と見紛うほどの技術の粋を集めたもの。とはいえ、50台余りの保有台数では、正直なところ「実証実験の域」でしょう。
そんな中、「新しく設立したJR東日本の現地法人を通じて、現地の主要駅に自動販売機を設置・運営するDecorum Vendingという会社を買収した」というニュースが流れて来ました。これでJR東日本がイギリスで展開する自動販売機ビジネスの規模は50台から1,000台規模へと一気に拡大されます。
自動販売機での購入は「最後の砦」?
JR東日本ロンドン事務所所長で、このほど設立された現地法人代表を兼任する名川進氏にお話を聞いてみました。
名川氏は、これまでのイギリスの自動販売機について「店が全て閉まっている時に仕方なく利用するラストリゾート(最後の砦)だ」と説明。人々にとっての自動販売機は「使い物にならないマシン」というモノで、他に買う手段がない時に仕方ないので使う程度でした。さらに、おしゃべりが好きな英国人にとって、機械で商品を買うのは面白くないことと捉えられており、それもこれも自動販売機ビジネス拡大にはマイナスなことばかりだったのです。
それでも自動販売機ビジネスに踏み込んだのはなぜだったのでしょう。名川氏は「お店での店員とのおしゃべりの習慣は、コロナ禍を契機に廃れてしまった」と機械からモノを買うことに対するハードルが下がって来たと分析。「自動販売機上で値引きするようなキャンペーンなど、購入する際に新しい体験を与えたり、付加価値を付けたりと、『やりよう』はまだたくさんある」と新たなビジネスエリアの開拓に期待感を示しています。
福島のももジュース、600円でも「売れ行き好調」
JR東日本が8月からロンドン中心部にあるユニクロ店舗内に置いた自動販売機では、acureオリジナルのジュースなどを1本3.20ポンド(約600円)前後で売っています。自動販売機では、ジュースだけでなく日本の鉄道関連グッズも取り扱っています。
販売価格は日本人の目には高めに感じますが、ロンドンにあるファストフード店の同等品は4ポンド超(800円以上)で売っていたりもしますから、市場価格並みでしょうか。そう考えると「日本製の高付加価値商品をロンドンで売る」という作戦も見えてくるかもしれません。
名川氏に売れ筋商品を伺ったところ、福島の「あかつき桃ジュース」がジュース類では一番人気。店頭でのテスト販売でも同じ結果だったといいます。青森りんごのジュースも好調で「他商品もまんべんなく売れている状況」だということです。
イギリスの自動販売機は「温かい飲み物」未対応
名川氏は、イギリスでの自動販売機の応用として「日本の売り方をそのまま持ってくるのではなく、例えばスーパーやコンビニで行われている“ミールディール”を機械で売れるようにしたら面白いかも」と指摘します。ミールディールとは、サンドウィッチを「メイン」とし、それに果物や袋菓子を「スナック」、これに飲料「ドリンク」をつけ、まとめて買うと一律の割安価格まで値下げされるという特典販売のこと。自動販売機上で、購入中に割引扱いになる対応は日本ではあまり見たことがありません。
「イギリスには温かい飲料を売る自動販売機がないんです。冬場にコーンスープやオニオンスープでも並べたら売れるかもしれません」(名川氏)
さまざまな自販機が並ぶ日本はすでに業界が飽和状態とも言えます。イギリスの自動販売機業界はさまざまな展開の余地があり、発展の伸びしろが大きいのかもしれません。
駅を自動販売機で面白くしたいーー。そんな日本流の考え方が一日も早くイギリスの地に広まることを期待しましょう。