デジタル渡航認証「IATAトラベルパス」、実際に使ってみた【レポート】

日本でも実証実験が始まった、デジタル渡航認証アプリ「IATAトラベルパス」。

国際航空運送協会(IATA)が開発を進めるアプリで、全日本空輸(ANA)や日本航空(JAL)など32社が実証実験への参画を表明している。「コモンパス」や「VeriFLY」などの類似アプリも開発が進められている。

今後、海外渡航にはこういったデジタル渡航認証の利用が必須になる可能性もある。今回、使い勝手を試すため、実証実験初日にホノルルに飛んだ。

今回の実証実験の対象となったのは、ANAの東京/羽田〜ニューヨーク・ホノルル線。期間は5月24日から6月6日までで、日本発、現地発ともに実施される。

対象となる医療機関は、東京は東邦大学羽田空港第3ターミナルクリニックなど4ヶ所、ニューヨークとホノルルはそれぞれ1ヶ所。オンラインアンケート調査への回答で全員に1,000マイルを付与するほか、東京の4ヶ所の医療機関では、検査代金から5,500円の割引を受けられるといった特典もある。

検査を受ける前に必要なことは?

「IATAトラベルパス」のアプリをスマートフォンにダウンロードし、セルフィーの撮影とパスポートの読み取りを行い、デジタルIDを作成する必要がある。アプリはApple IDを紐付けられ、開く際にはFaceIDによる顔認証やパスコードの入力が必要となる。

実証実験段階のため、アプリの言語は全て英語だ。セルフィーは本人であることを認証するために撮影するもので、「左を向いて瞬きをする」「正面を向く」といった指示が英語で表示されるので、一瞬で理解するのは(英語が得意、という人でなければ)至難の技。

なんとかクリアした後、パスポートの顔写真のページの下部を撮影し、ICチップをスマートフォンのNFCリーダーで読み取り、パスポート情報と照合する。ちなみに他人のパスポートを読み取った場合、セルフィーとICの画像が一致せず、登録ができないという。この2点をクリアすると、ようやくホーム画面が現れる。

「YOUR FLIGHT」では、自分の搭乗するフライトを登録できる。「DOCUMENT」では、パスポート情報とセルフィー画像の確認が可能。「HEALTH」では、自身の検査結果を確認できる。「CONNECT」は、医療機関にある端末の読み取り時に使う。

注意したいこともある。例えば、セルフィーで撮影した自身の画像が気に入らないなどいう場合、アプリを消去して新たにダウンロードすることで、デジタルIDを作成し直すことができる。検査結果もリセットされる。つまり、「IATAトラベルパス」のみで陰性証明書を受け取った場合、誤ってアプリを削除してしまうことで、陰性証明書そのものにアクセスできなくなってしまう。

「IATAトラベルパス」では、個人情報を保護する観点から、データベースサーバーにプロフィールや陰性証明書などの情報を送らず、自身のスマートフォン上で管理している。紙の陰性証明書の紛失や個人情報の流出リスクを抑制できる一方、スマートフォンの紛失や盗難、アプリの誤削除、電池切れといったリスクがあることには注意しておきたい。

医療機関ではどうする

今回検査を受ける、東邦大学羽田空港第3ターミナルクリニックのオンライン予約を行った後、出発日の5月24日午前9時の営業開始と同時に、受付に向かった。

ウェブサイトの予約確認画面から予約が消えており、ウェブ送信した問診票も受け取れてない、にもかかわらず、紙のリストには名前があるという謎の状況下であったが、十数人待っていた受付は10分ほどで完了。

次に医師の問診に移る。「「IATAトラベルパス」の実証で、陰性証明書をアプリで受け取りたい」と話したところ、よくわかっていない様子。どうやら初めての患者らしいが、どうにか唾液採取キットを渡された。

医療機関側のアプリがうまく動かないとか、いろいろ言われながらも、提示されたタブレットのQRコードをスマートフォンで読み取り、進めるとスムーズ連携が完了。あとは検査結果を待つのみだ。今回は実証実験であることから、紙の陰性証明書も受け取る必要がある。受け取りは午後1時頃。検査当日に出発するという人は余裕を持っておいたほうが良い。

デジタルで受け取れるのはとても楽

最初にデジタルのデメリットを強調してしまったが、もちろん大きなメリットもある。

検査結果が判明次第、アプリ上で結果受け取ることができるほか、IATAが持つ最新の渡航要件と、検査方法や結果、検査時間を照合し、渡航可能であるかをひと目で確認できるという点だ。

国によって、検査は出発時刻のX時間以内といった制限や、検査方法を限定するなど、検査要件が異なるほか、突然変更もされる。そういった情報は、ビザの有無や国籍別の渡航要件などを一覧化している、IATAが運営するサービス「Timatic」に格納されており、検査データと照合させることで、常に最新の情報を確認できる。日本入国時に必要な陰性証明書も検査方法が限定されており、日本人であっても入国(帰国)が拒否されたという事例も報道された。そういった心配がないのは心強い。また、紙とは異なり、偽造リスクも軽減される。将来的には航空会社のシステムとの連携や仕様の統一なども図られるという。

検査結果を受け取り、「OK TO TRAVEL」の文字や、緑色のチェックが付いていれば、渡航要件をクリアしているということになる。

一方で、ハワイ州では独自の陰性証明書の提示と、10日間の隔離免除のための陰性証明書の事前アップロードが求められる。そのため、まだ紙の証明書が必要であることには変わりない。

ちなみに、受け取った陰性証明書のPDFは、自身で行う必要がある。今回は空港のローソンでスキャンしたデータをスマートフォンで受け取り、ハワイ州のサイトからアップロードした。ありがたいことに、空港のチェックインカウンターで確認してもらうことができるので、安心して渡航できる。

どうすればデジタル渡航認証が普及する?

特に検査費用が安かったり、空港などの利便性が高い医療機関が多く対応すること、そしてデジタル化による利点が大きいことが重要であるように思える。チェックインや入国審査に専用レーンがあり、スムーズに出入国ができれば、なお良いだろう。

また、言語切替機能、万が一の際の復旧機能も必須であるといえる。現在は対応していない、ワクチンの接種記録や証明書の格納ができれば、より利便性が向上する。一方で、航空券の予約情報との紐付けは手動でも簡単にできることから、さほど面倒であるという印象を受けない。

今回の検査代金は、実証に参加する医療機関を選んだことから、33,500円かかった。そういった状況下では、特に短期、近場の観光旅行には行きづらい状況が続く。より安価な検査、ワクチン接種済み者の入国制限緩和が進むことが、海外旅行回復には必須であることを、ひしひしと感じた。