オンライン旅行会社の”脅し”で完全勝利、その背景と問題点【永山久徳の宿泊業界インサイダー】

じゃらん GO To 変更

しかし、その声の上げ方がおかしい。水面下での増枠要求があったのか、それがあったとしても不調に終わっていたのかなどの事情はわからないが、少なくとも消費者から見えた事実は「もう枠が無いので売れません。文句は国に言って欲しい」というレベルのものだ。当然マスコミは騒ぎ、キャンペーンに対する批判が再燃した。国が慌てて追加配分を表明したのも、これ以上、Go To トラベルキャンペーンを混乱させないために最大限配慮した結果だろう。

しかし、この一連の流れをまとめると、OTAが国に対して「割当額のおかわりくれなきゃ利用者を困らせてやるぞ」と、トリックorトリートにも似た「脅し事案」であったとも言える。国民を人質にされた国は言うことを聞かざるを得ない状況にあることもわかった上でも行動だと感じざるを得ない。Go To トラベルキャンペーンには旅行業界の浮沈もかかっている中で、リアルエージェントの枠が余っているのは決して努力が足りないという訳ではなく、団体旅行や修学旅行、交通機関とセットのいわゆる足付きプランにまだブレーキがかかったまま動いていないからであるのは明白なのだ。その背景を無視して、現状の販売比率を基に増枠を求め認められるということは、最終的にはまだ動いていないジャンルの旅行者が本来享受すべき予算をOTAが使うということになる。先行して動く特定のジャンル、特定の事業者に予算を集中させるというのはキャンペーンの主旨的にはおかしいことなのだ。

OTA以外の旅行会社とは決して大手旅行会社だけではない。大手ブランド商品を代理販売する提携販売店、個人経営の旅行代理店、バスやタクシー事業者の旅行部門など、数多くの事業者が存在する。全国のどの街にもある瀕死の事業者と数万人の従業員を殺さないために作られた補助金を、OTAが横取りする構図になっているとしたらいたたまれない。

そうは言っても、私は旅行会社を無条件で支持している訳ではない。インターネットにより流通にこれだけ変化が起きた以上、従来型の仲介ビジネスが永続するはずがないことをもう少し真剣に考えるべきだ。旅行需要の創出に寄与する旅行会社もある一方で、宿泊施設が直販可能な既に創出された需要に旅行会社が割り込むビジネスもまだ残っている。本来WIN-WINであるはずの関係が保てていないことに不満を述べ、旅行会社不要論を持ち出す宿泊施設関係者が増えてきている現実もある。アフターコロナでもこのギクシャク感は続くだろうし、勝ち負けによる淘汰も進むだろう。しかし、そのような感情や議論の前に、このコロナ禍の中で旅行会社は経済と雇用のために1社でも多く生き残らなければならない。そのための原資となる補助金(=税金)を一部の企業に独占されることはあるべきではないと考える。

今回の問題は期間により区切られて供給される配分枠の一期分(何期に分かれているのか分からないので便宜上こう呼ぶ)が早期に売り切れそうになったことから発生したのであることから、国土交通省は増枠ではなく将来分を前倒しで供給する判断をすべきであった。今後回復させなければならない団体旅行や足付き旅行に対する予算には手をつけず、需要回復まで温存することこそがキャンペーンの効果を高めることに繋がったはずだ。主に個人旅行に充てられた枠が早期終了になっても、団体旅行枠が年度をまたいでも、それは本来の主旨に照らし合わせると致し方のないことなのだから。もちろんGo To トラベルキャンペーン全体の予算が増額されればこのような議論も不要になるのだが、それにはまた別の議論が必要だろう。

余談ではあるが、OTAが販売制限した実質1日の間に興味深い現象が起こっているとの報告が同業者間で駆け回り興味を引いた。回数制限を行ったことでそれまで好条件を狙ってキャンセルと再予約を繰り返していた顧客の動きが止まり、施設の作業が軽減された。補助額上限を3,500円に引き下げると発表されたサイトではこれまで苦戦していた10,000円前後の施設の予約が急増した。実態を検証することによって、今後のキャンペーンの在り方や修正点について重要なヒントが得られるのではないだろうか。混乱続きのGo To トラベルキャンペーンではあるが、今後の業界にとって大いに示唆に富むものになるだろう。

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