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「Go Toキャンペーン」延期で想像以上の悪影響 廃業や倒産は不可避か【永山久徳の宿泊業界インサイダー】
新型コロナウイルスで影響を受けて需要が落ち込んだ旅行、飲食、イベント、商店街への支援策を中心とした「Go Toキャンペーン」事業。上限を3,095億円とした委託費を問題視した野党の批判を受け、委託先の公募を一旦中止したことで、「Go Toキャンペーン」は当初報道された7月下旬の開始予定から大幅に遅れることが確実となった。大きな期待を寄せていた全国の事業者は落胆を隠せない。
「アラートも消えていないのに旅行は早すぎる」「観光に予算をかけるよりも国民生活に回すべき」など批判を浴びながらも、このキャンペーンは1日も早くスタートさせる必要があった。もちろん瀕死の観光業界を助けることにより、日本全域に経済的なインパクトを与える目的が大きいのだが、この点については後述する。
キャンペーンを急ぐ理由は、国民意識の「再リセット」だ。ほぼ完全に自粛生活を受け入れ「リセット」した国民の意識を再び「再リセット」し、マインドを180度戻そうというのだから一筋縄ではいかない。大都市圏ではショートトリップは復活しつつあるが、地方では「まだ旅行は早い」との声がいまだに大多数だ。そしてその最大の理由は新型コロナウィルスの感染の可能性を恐れているのではなく、出かけることそのものへの後ろめたさと周囲の目だ。「自粛警察」は沈静化したものの、今率先して旅行などしようものなら、ご近所や職場の同僚から投げかけられる視線が冷たいものになるのは明白だ。いくら施設が新型コロナ防止に対応しても、いくら顧客が利用を望んでいても、「旅行しても良い」というムードが生まれなければならないが、残念ながらこのムードが自然発生することは考えづらい。
だからこそ、大型キャンペーンを実施し、「旅行は悪」というイメージを一気に破壊する必要があった。ムードが変わってから発動させるのが「Go Toキャンペーン」ではない。逆に国民のムードを変えるために不可欠なのが「Go Toキャンペーン」なのだ。
そして、その効果を最大限発揮するためには7月中の実施が最も効果的であるとの見解が各方面から出され、7月実施が最適解であるとの共通認識が業界内で生まれ、その要望に応えるために、政府が常識外れの猛スピードで準備をすすめてきたのは周知の事実だ。そのキャンペーンがこのような形で停滞することは旅行マインドの復活が一気に遠のいたことを意味する。この影響は計り知れない。
マインド面だけでなく、経済的な視点からも延期の影響を述べる。新型コロナウィルスによる自粛が続いたことで、観光業による経済効果の裾野が想像以上に広かったことを改めて痛感した方も多いことだろう。観光客の減少に影響を受けたのは何も飲食店や土産物屋だけではない。漁師は高級魚を捕まえても高値がつかないので市場に卸さなくなった。農家は夏に収穫予定の高級果物の栽培を取りやめた。加工食品工場はラインを停止した。人の胃袋の総量は変わらないのに、観光により消費されていた高付加価値食材は行き場を失ってしまったのだ。
もちろん観光客が消費していたのは食材だけではない。観光客が動くことで、例えば飲食店や土産物屋の直接雇用、そこをメンテナンスする地元の電気空調設備、工務店、さらにそこに部品を納入する商店…。観光客が地元に落としたお金は高速で回転しながら5重、6重に地元に溶け込んでいく。つまり1兆円が5兆円、6兆円の経済効果を生むということだ。その集客装置たる宿泊施設が生き返らないことには地方経済はほぼすべての産業に渡って体力を失う。これは間違いのない事実だ。
日本旅行業協会(JATA)が発行する「数字が語る旅行業2019」によると、2016年の国内での観光消費額は26.4兆円で、生産波及効果は53.8兆円、雇用効果は459万人、税収効果は4.7兆円にも達する。15歳から64歳の「生産年齢人口」は約7,545万人で、働く人の約6%は何らかの形で観光業による恩恵を受けている形になる。