JALの最新鋭機エアバスA350型機、実際に乗ってわかった実力 ”移動が楽しくなるシート”を実感

日本航空(JAL)がいよいよ9月1日より、東京/羽田〜福岡線に導入するエアバスA350-900型機。JALとして初のエアバス機、そして日本で初めてのエアバスA350型機の導入ということもあり、注目を集めている。

標準の座席配置は、ファーストクラスが「2-2-2」配列で12席、クラスJが「2-4-2」配列で94席、普通席が「3−3−3」配列で263席の計369席で、繁忙期などの需要増に対応するため、短期間で座席数を変更できる仕様となっている。全席にタッチパネル式の個人モニター、AC電源、USBポートを備え、機内Wi-Fiによるインターネット接続サービスも提供し、ビジネス、レジャーどちらの利用であっても、それぞれ思い思いにくつろげる空間になった。

今回、成田から札幌、名古屋を経て羽田まで3便のテストフライトに同乗し、一足早く体験したので、乗り心地をお伝えしたい。3便のフライトは、1便目を機内撮影やシートの体験、2便目をビジネス客を想定したパソコンでの作業、3便目をレジャー客を想定したモニターでのエンタメなどの利用に充てる形とした。

テストフライトは1日6便、成田空港で交代

同乗取材した日は、午前の東京/羽田〜大阪/関西〜札幌/千歳〜東京/成田間と、午後の東京/成田〜札幌/千歳〜名古屋/中部〜東京/羽田間のそれぞれ3便のフライトを、それぞれ3人の乗務員が成田空港で交代する形で行っていた。福岡へフライトを行った日を除くと、羽田空港を早朝に出発し、深夜に帰着するスケジュールで運航している。

午前のフライトは南雲恒昌機長、宮沢憲一郎機長、野澤祥大機長の3人、午後のフライトは杉本恒機長、後藤弘太郎機長、荒木隆裕機長の3人の、運航訓練部A350訓練室所属の乗務員がそれぞれ担当した。

従来より座り心地がよくなった

JAL SKY NEXT

現行機に搭載されている、2014年5月から導入された「JAL SKY NEXT」は、3クラスともに革張りシートを採用している。ファーストクラスとクラスJは厚みがあって、応接室の椅子やソファーのようで重厚感があるが、普通席はスリム化をしすぎたが故に、高級感よりもチープな印象を受ける。

「JAL SKY NEXT」は、シートの前後間隔(シートピッチ)はこれまでと変わらないものの、シートの薄型化によって約5センチゆとりが生まれたということと、機内Wi-Fiを全機材の搭載するというのが当初最大の売りで、それに機内Wi-Fiの完全無料化というおまけが付いた。機内Wi-Fiを日本の国内線に導入したのはJALが初めてで、「どうしても地上と連絡を取れる状況にしておく必要がある」という理由だけでJALを選ぶという人も周囲にいたことを覚えている。

今回、約5年4ヶ月ぶりに導入した新シートは、ファーストクラスは全面が革、クラスJと普通席は座面は革、背面はファブリックを採用。背面にモニターを搭載したことからシートそのものに厚みが出たということもあり、座った感じもより”普通の座席”に近づいた感じを受ける。

それぞれの機能をみていきたい。ファーストクラスのテーブルは一枚板から横に折りたたむものに変わった。折りたたみのテーブルは、作業する際にぐらつくことも多いが、パソコンを置いて作業をしたり、少し力をかけてみても、ガタつくことなくかなりしっかりしていると感じた。

ちなみにその他の座席のテーブルは、クラスJも肘掛けから取り出す、横に折りたたむタイプのもの。普通席は前に座席がない席以外は、前の座席の背もたれ部分にある上下に折りたたむタイプのもの。クラスJのテーブルはファーストクラスと比べてぐらつきがあり、作業のしやすさという面では、クラスJより普通席のほうが適しているかもしれない。

クラスJの肘掛け部分にある小さなテーブルには、隣席との”境界線”が示されるようになった。我が物顔で占領する人もこれまで確かにいたので、こういった細かい配慮には日本らしさを感じた一方、隣席の乗客に配慮がない乗客がこの線ひとつで配慮するようになるのかと言われれば、なんとなくうまくはいかない気もする。

JAL A350 Y

今回着席していた普通席の30列目から機内を見渡すと、印象的なのはアクセントとなっている赤。普通席のグレー色の野暮ったさがなく、モダンで洗練された感じを醸し出している。

前方はとても静か、最後方でも従来より快適

巡航中に、ファーストクラス、クラスJ、普通席のそれぞれを移動しながら乗り心地や騒音について体感してみた。

最前方のファーストクラスや、エンジンより前方にあるクラスJはかなり静かで、エンジンの「キーン」といった音も感じない。普通席の部分からエンジンにかかるため、多少の騒音はあるが、最もうるさいとされる最後方でも、会話に不自由するような騒音はなく、従来機でノイズキャンセリングヘッドフォンを利用しているくらいの静寂さは保たれている。

各座席のモニターでは、映画やビデオなどのエンターテインメントが楽しめるのがポイント。観終わらなかった映画やビデオは、次便で引き継いでみることができるのは嬉しいポイント、前方と尾翼のカメラからフライトの様子を楽しむこともできる。機内が静寂だからか、あまり大きな音量にしなくても音声がよく聞き取れるので、耳への負担も少ない。

世界的にみても、国際線はモニターやWi-Fi付き機材、国内線などの短距離路線は簡素な設備の機材で運航していることが多い。せいぜい機内Wi-Fiを通じて動画コンテンツを配信したり、タブレットスタンドを作ったというくらいだろう。機内インターネットは増収策の一環として有料で提供しているケースもある。先日乗ったアメリカ国内線では、本来画面があるはずのところにプラスチック製のタブレットホルダーがあり、自身のタブレットをあたかも装備品のように利用できるようになっていたが、アメリカではタブレットを利用する人が多いからか、結構利用している人がいた。筆者も同様に使ってみたが、「まあ国内線だし、こんなものだよね」という諦めにも似た感じもある。一方で日本国内では、ANAもモニター付き機材を幹線に導入することから、せいぜい2〜3時間程度の飛行時間である国内線でも、モニター付きが今後の標準となるだろう。

出発から到着まで使える機内インターネット

さらに嬉しいのは、出発空港のゲートを離れてから、到着空港のゲートに到着するまで利用できる機内インターネットだ。提供会社はこれまでのGogoからパナソニックアビオニクスに変わっている。

飛行機の扉が閉まってから、着陸後のアナウンスまではスマートフォンなどを機内モードに設定するか電源を切る必要がある。これまでの機内インターネットは、離陸後5分程度経つまで利用できなかった。最初にエアバスA350型機が就航する羽田や福岡は時間帯によっては混雑し、離陸まで15分、20分待つこともある。自称電波中毒、ツイ廃人間の筆者にとって、特に昼間の便ではどれだけ苦痛か…。普通の人でも、常に仕事のメールやLINEなどをチェックできるのはありがたいはずだ。

今回のテストフライトに乗っていたのは、わずか十数人程度ということを付け加えるが、速度は上昇中も巡航中もさほど変わらず、下りで5Mbpsから6Mbps程度が出ており、機内という環境を考えれば速度も申し分ない。窓の外を見ると、エアバスA350型機の特徴的な形のウイングレットのグラデーションの赤が、青空や雲の色に映えていて、思わず写真を撮りたくなる。「離陸なう」と写真付きでつぶやけるようになる日も近い。

唯一残念なAC電源の位置

普通席のテーブルに、筆者が使っている13インチのMacbookProを載せて開くと、ちょうどAC電源がパソコンの背面で隠れてしまい、充電しながら利用することができないのは、この機材で唯一かつ最大の欠点といえる。スマホを充電する人向けだろうかとも考えたが、モニター部分にUSB電源があるので違うだろう。

唯一の例外は、前に座席がない座席。具体的には27列目と45列目にあたる。この座席のみ、AC電源は座席下にあるので、普通席で充電しながら作業をしたいという人にはおすすめしたい。多頻度で利用するという人は、延長コードのようなもので自衛する必要があるだろう。ちなみにファーストクラスとクラスJでは、AC電源は肘掛け部分に位置しており、心配は不要だ。

エアバスA350型機ならではのポイントを野澤祥大機長は、「静かな飛行機で外をご覧いただいて楽しんでいただきたい」と話していた。これまで、数々の飛行機を飛ばしてきたベテランパイロットは、静かで乗り心地が良いことを口々に強調しているのが印象的だった。

テストフライトは、午後2時58分に成田空港を出発し、新千歳空港には午後5時3分に到着。午後6時9分に再度飛び立ち、中部国際空港には午後7時56分に到着した。最終便は午後8時54分に出発し、羽田空港には午後10時42分に到着した。途中の寄港や乗客がほぼいない状況ということを付け加えるが、6時間弱の飛行時間の割にはあまり疲れを感じなかった。

JALはエアバスA350-900型機を、9月1日から東京/羽田〜福岡線に投入した後、10月27日から東京/羽田〜札幌/千歳線、2020年2月1日から東京/羽田〜沖縄/那覇線にそれぞれ投入する。最初は1機からのスタートだが、導入機材が増えるにつれて、徐々に当たる確率が高くなるだろう。飛行機の移動がより楽しみになる日も近い。

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