チケット代返せ!バス運転手はボイコット、スタッフには「逃げろ」指示 悲惨な「F1日本グランプリ」

9月28日~30日までの3日間、静岡県駿東郡の、富士スピードウェイで開かれた、「F1日本グランプリ」。増設した座席からコースが見えず、急遽払い戻しをすることになったり、決勝に間に合わなかったツアー客に払い戻しをするなど混乱が相次いだ。また、現地に足を運んだ人の中に「富士にはもう行きたくない」「チケット代返せ」という声が多く聞かれる。取材を進める中で、新聞報道されていない驚愕の事実が次々と判明した。

観客を考えない運営に怒り

静岡県富士市の中山悠季さんは、「メインの入場ゲートがたった1列、チェックする人は1人でした。小さいテントに入場1列、退場1列で長蛇の列でした。しかもチェックはちらっと見るだけで偽造チケット見せても分からなかったでしょう。無駄な並びが本当に多く、観客を全く考えていない運営だと思います」と語る。他にも、「暖かい飲み物がコーヒーしかなくて子供に飲ませられなかった」「レトルトカレーや焼きそばが1000円」という話も聞くことができた。観客のことを考えていれば、価格を安く抑えたり、品数を増やすことや、入場ゲートを広くするという対策が取れたはずだ。

震えながらバス5時間待ち!手配はどうなっている!

Yさん(仮名)は、「帰りのバスは、16時過ぎに並び始めて、乗れたのは20時でした。スタッフも少なく、並ぶ列は入り乱れ、遅延の情報もなかなか入りませんでした」と言う。ほかにも、方面により、4~5時間雨の中待った人も多かったようだ。また、「バスの中で漏らしてしまう子供がいて、その臭いで乗客が次々吐いた」という話や、乗客が乗ったバスが発車しようとしても、空のバスが邪魔をしてしまい、進めなかったという話も聞く。つまり、誘導や設備がしっかりとしていないのである。大会運営関係者の話では、運営を担当したジェイティービー(JTB)子会社のジェイコムの担当はスタッフへのミーティングで、「当初計画よりスタッフの数を3割減らしている。10人で行う仕事を7人で対応していただくので、皆さんに頑張っていただかなくてはいけません」言っていたようだ。

富士スピードウェイでは会場付近の混乱を避けるため、愛知万博の際も導入された、「レール&ライド」という方式で、最寄り駅からバスで会場入りする方式をとった。チケットを買う際にバスの乗り場を指定し、その場所から乗るというもの。バス自体は無料だが、当然チケット代金に費用が含まれている。その割には、なんともお粗末である。

立て替えたタクシー代は未払いのまま 遅れる払い戻し案内

シャトルバスが大幅に遅れた結果、終電に乗り遅れたという、千葉県船橋市のKさんは、「タクシー代を立て替えて、後日請求するということで話がつきました。ジェイコム本社の電話番号を教えてもらい、今月1日、ジェイコム本社へ電話したところ、その件は東京へ電話して欲しいと言われ番号を聞き連絡しましたが、何時間か経って、折り返し電話をかけてきた、ジェイコムのW氏からは富士スピードウェイの事務所に直接掛けるよう言われましたが、電話しても話し中でした。翌朝から電話するがまったくつながらず、タクシー代金5万8610円が、現在も立て替えたままになっている。はっきり支払いの確認もとれず、最悪の場合泣き寝入りも考えられるため、何とかならないかと思案中です」と語ったが、記者の取材の後、「たらい回しの中、ジェイコムに、『取材されている』という話をしたところ、『領収書を送ってもらえればすぐ振込みします』と言って来ました。やはり、表沙汰にはしたくないようです」と語ってくれた。もしかしたら、泣き寝入りしてしまった人が他にもいるのかもしれない。

東京都品川区のSさん(仮名)は、「C席を購入した人は富士スピードウェイの売りである、長い直線からフルブレーキングで第一コーナーを曲がっていくところを見たくて購入している人がほとんど。ウェブサイトでは一番遠くまで走るところを見られる席とされていたが、フリー走行の時、目の前で車が見えなくなる現実に愕然とした。返金については、日曜の本戦直前に紙切れ1枚が配られて、それ以外は何のアナウンスも謝罪もなかったので、帰るまで知らない人もたくさんいたはず」と語る。今月5日になって、ようやく払い戻しの案内がホームページに掲載されたが、案内が遅すぎたのではないだろうか。

バス渋滞で観客は歩いて会場へ

東京都江戸川区の中村義幸さんは「決勝日の行きには、私以外にも多くの人が、シャトルバスをサーキットの3、4キロ前で降りて歩かざるを得ませんでした。渋滞の最後尾について、45分間我慢しましたが、その間に50メートルも進みませんでした。おそらくずっとバスに乗ったままだとしたら、決勝は見られなかったでしょう」と言う。結局、バスの台数が多すぎて、裁ききれなかったというわけだ。富士スピードウェイへの道は、細い道であるので、事前に予測できたことである。「知らなかった」では済む話ではない。

バイト運営スタッフが衝撃告白!バスはボイコット、「逃げろ」指示も

バスの誘導をしていたスタッフ、Kさん(男性)に話を聞くことが出来た。「私の担当はシャトルバスの待機場での誘導のポジションでゲートへシャトルバスを送り出すことと、バスの運転手さんの休憩対応という役割でした。予定表に無いバスが来て、ディレクターが本部に問い合わせると 『バスの運転手が持っているスケジュールが最新ですので、それに従ってください』と言われ、最新スケジュールを現場に下さいってお願いしても、『届けられない』と言われました。イレギュラーでバスが来るから、運転手さん用の弁当が不足し、追加で弁当を本部に依頼すると、予備を見ないで持ってくるから結局すぐまた弁当が不足する。悪循環の繰り返しとなる。

雨が降り出したので、ポンチョが支給されましたが、ちょっと動いただけで破け、テープでツギハギだらけで頑張りましたが、 結局びしょ濡れでした。予備がなく、翌日も雨が降る場合は、引き続きこれを使わないといけないといわれ、「明日朝までに“使える”ポンチョを用意しないとスタッフを現場には出せない。スタッフの体調管理ができない」と、ディレクターが本部に抗議していました。」

ほかにもKさんは、当時の様子を語る。「一部のバス運転手さん達はボイコットして帰ってしまった。お客さんにキレられても、運転手さん達に情報が来ないから対応できないし、規定の13時間以上の労働を強いられた挙句、休憩も取れない。 待機場に寄れても、用意されているはずの弁当も無い。サーキット内の運営スタッフには、お客様の不満がピークのため、 暴動に巻き込まれないようユニフォームを脱ぐ指示が出た。ポジションによっては『逃げろ』とも…。

富士スピードウェイや、トヨタにも主催者責任があるが、諸悪の根源はJTBと、JTBが丸投げしているジェイコム。特に輸送部門の責任者達にあると思う。そして、お客様に対応するのは現場で前面に出るスタッフ。そのスタッフにまともに情報を流さないし指示もロクに出ない。収拾つかない現場。事態を想定していなかった本部は判断することが出来ず後手後手の対応。

最終的に、午後10時頃にはようやくお客様をほぼサーキットから送り出せたが、みんな疲労困憊。ところが、待てど暮らせど迎えのバスが来ない。噂では、スタッフ輸送のバスも前日の余波でボイコットしてたようで、別のバスを手配され、雨の中2時間待ちだった。」

スタッフも当初の計画より減らされ、雨の中相当な仕事量だったに違いない。ずさんな運営の被害者は、観客のみならず、スタッフやバスの運転手にまで及んでいたのだ。

”世界一”のおもてなしはどこへ!?

大会前、運営を担当したジェイコムの担当者は、現場スタッフに対して、「”世界一”の自動車メーカー、トヨタが主催し、”世界一”の旅行会社JTBが交通輸送を担当する”世界一”のイベントF1。来場されるお客様に”世界一”のおもてなしをして 楽しい思い出を持って帰っていただくのが私たちの仕事となる。」と語ったそうだ。

東京都品川区のSさん(仮名)は、「常設トイレが長蛇の列になったので、子供連れなどが、車椅子用のトイレに入るようになり、車椅子の渋滞が出来ていました。何度もスタッフに、車椅子の人を優先するように言いに行きましたが、きちんとした対応はありませんでした。屋根の下では、喫煙所ではないところでタバコを吸っている人がたくさんいて、それも注意されていませんでした。」と語り、静岡県富士市の中山悠季さんも、「会場での英語アナウンスは実況中継だけでした。外国人がなにもわからず、うろうろしていたのをよくみかけました。会場をあとにする人たちで楽しそうな顔をしている人はほとんどいませんでした。」と筆者に語った。

私には、”世界一”の自動車メーカーのトヨタと”世界一の”旅行会社JTBによる、”世界一”の大失態だったと思えてならない。”世界一”のおもてなしはどこへいったのだろうか。

”悲惨なグランプリ”の報道は皆無

こんなにまで、”悲惨なグランプリ”であるのにもかかわらず、メディアの報道は「道路陥没事故」以外は全く触れていない。

今月1日、ジェイコムと富士スピードウェイに取材を申し込んだが、1ヶ月近く経った今も、明確な回答は得られていない。観戦客からのクレームもいまだに多く、そちらへの回答だけでも手がまわらないようだ。同日、富士スピードウェイはウェブサイト上に、「F1日本グランプリご来場の皆様へ」というお詫び文を掲載した。ジェイコム関係者によれば、「うちの人間が、多数富士スピードウェイに行っていて対応している。電話が通じないのはお客様からのクレームが700件ほど入っていて、電話回線は増やしているのだが一人のお客様の対応に1時間程度かかっていて電話が通じない状況」だといい、これは数日続いたらしい。

今回、取材した方の中の多くは、「今後の運営の改善につながれば」と取材に協力してくれた方ばかりだ。富士スピードウェイやトヨタ自動車、JTBは、ファンからのクレームをもとに問題を改善し、「また行きたい」と思えるような大会にしなければ、ファンの足は確実に遠のくに違いない。来年こそは、「『世界一』のF1日本グランプリ」になることを切に望みたい。