“誤差2秒・9ミリ”、東海道新幹線で自動運転試験 5年後にも実用化へ

JR東海は5月11日、東海道新幹線の自動運転システムによる走行試験の様子をメディアに公開した。2028年から営業列車への導入を目指す。

東海道新幹線で開発中の自動運転装置(ATO)は、運転士が乗務してシステムの起動・停止操作や緊急時の対応を行う「GoA2」と呼ばれるレベルで、「半自動運転」と定義される。国内では東京メトロ南北線やつくばクスプレスなどですでに導入されている。

国内における従来のATOは、予め設定された加速・減速パターン(運転曲線)に従って列車を走行させているが、東海道新幹線では走行しながらリアルタイムに運転曲線を計算するシステムを開発。悪天候や安全確認により突発的に速度制限が発生した場合でも、信号や勾配、トンネルなどの地上条件を考慮した上で運転曲線を計算して走行できる。

JR東海によると、ATOによる走行試験は2021年11月に開始し、本線上でこれまでに十数回行っているという。11日の実証実験では、営業列車には使われていないN700Sの確認試験車「J0編成」で、浜松〜静岡駅間を1往復した。

N700S J0▲浜松駅に入線したN700S確認試験車「J0編成」

浜松駅では、運転士が出発時刻や戸閉めを確認してATOの起動ボタンを押すと、列車がゆっくりと加速を開始。途中に設定された制限速度などに従って自動的に加速・減速し、通常の営業列車と全く変わらない乗り心地で走行を続けた。走行中は運転士がマスコン(加速ハンドル)やブレーキを操作することなく、約26分で静岡駅に到着した。所定のダイヤとの誤差は2秒(早着)で、停止位置の誤差は0.9センチ(手前)だった。JR東海のシステム開発担当者によると、停止位置の誤差は前後50センチを目標としているという。

▲静岡駅で停止位置の誤差を測定する作業員

東海道新幹線ではこれまで、地上条件に合わせて列車の速度を自動調整する「定速走行装置」や、東京駅における「停止操作アシスト機能」など、将来の自動運転実現につながる要素技術の導入が進められてきた。JR東海新幹線鉄道事業本部の辻村厚本部長によると、自動運転の構想は「相当前からあった」といい、省人・効率化と安全・安定性確保を両立したい考えだ。

JR東海 新幹線鉄道事業本部 辻村厚 本部長▲JR東海 新幹線鉄道事業本部 辻村厚本部長

ATOの導入は、将来的には乗務員の業務分担を見直し、安全性や旅客サービスの向上につなげる狙いもある。従来は車掌が行っているホーム上の安全確認などを運転士が担当し、車掌による車内巡回の機会を増やすという。

新幹線の自動運転を巡っては、JR東日本やJR西日本もE7系・W7系をベースに技術開発を進めている。JR東日本は営業列車へのシステム導入に先立ち、まずは回送列車を自動運転とする方針だが、東海道新幹線では当初から営業列車での実用化を目指しているという。

▲浜松駅出発前に信号や戸閉めを確認する運転士

▲ATOによる走行制御について車内で説明する担当者

▲リアルタイムに計算される運転曲線(赤色)。黄色の線は信号による制限速度、ピンク色の線は制限速度、水色の線は実際の走行状況を示す

▲静岡駅に到着した試験列車

▲静岡駅で停止位置誤差を測定する作業員