知っておきたい「ワクチン・検査パッケージ」 ワクチン接種で国内旅行容認へ

ワクチン接種を事実上前提とした「ワクチン・接種パッケージ」で、小規模の国内旅行などを”容認”する提言を、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会が「ワクチン接種の進展と日常生活の変化に関する提言案」の中でまとめた。

変異株出現、集団免疫獲得困難で先行き不透明

現在は多くの地域で緊急事態宣言の発令やまん延防止等重点措置の実施が行われているが、人々の間で先が見えないことによる不安や不満が高まっていることから、感染対策に有効とみられるワクチン接種が進んだ後にどのような日常を送れるかについて、考えを示したとしている。

提言の中で、ワクチンによる重症化予防効果は高いものの完全ではなく、感染予防効果は重症化予防に比べて弱いため、ワクチンを接種した本人が感染し(ブレイクスルー感染)、他者に感染させる可能性が残っていること、ワクチンによる免疫は数か月で弱くなる可能性が指摘されていることを踏まえ、すべての希望者がワクチン接種を終えても、集団免疫の獲得は困難であると推測している。

ワクチン普及後、接種率が60歳代以上で85%、40〜50歳代で70%、20〜30歳代で60%と想定したシナリオでは、ワクチン未接種者を中心に、会食の人数制限やテレワークなどで接触機会を50%程度低減して感染を抑制する必要があり、「緊急事態措置」などの強い対策が引き続き必要となる可能性が高いとみている。この場合には、人々の生活や出勤やイベント開催など社会経済活動が一定程度制限される。

「ワクチン・検査パッケージ」は事実上のワクチンパスポート?

分科会の尾身茂会長がまとめた提言では、ワクチン接種を中心に、個人が他者に感染させるリスクが低いことを示す仕組みとして「ワクチン・検査パッケージ」を導入する。ワクチン接種ができない人やワクチン接種を行いたくない人が社会参加できるようにするため検査も活用するが、ワクチンを接種した人が感染リスクが低いとみなし、制限の下でも感染リスクが比較的高い活動を認める枠組みとなる。

「ワクチン・検査パッケージ」は民間の取り組みとして活用されるべきとして、国や自治体はその取り組みを後押しするものと位置づける。海外渡航に関して用いられる「ワクチンパスポート」とは接種歴などを記録する点では似た枠組みであるが、異なる名称で区別し、民間の取り組みによる枠組みとして整備する方針だ。

ワクチン接種者には、小規模分散型での旅行や、一定の感染対策の下での会食、カラオケなどを実施可能にする。一方で、ワクチン未接種者には検査を受けて陰性を確認し、基本的な感染防止策の徹底を求めたうえで旅行や会食を可能とする。ワクチン未接種者が混在する場合、未接種者は検査による陰性確認が必要となり、密室でのカラオケなど感染リスクが高い事柄については控えるべきとしていて、同じ枠組みの中でも低い感染リスクのワクチン接種者を優遇する構えだ。

羽田空港

提言では、県境を越える出張や旅行、全国から人が集まるような大規模イベントを挙げて、パッケージの活用で規制緩和につなげたい考えだ。また、冠婚葬祭や同窓会などの大人数での会食や宴会、医療機関などへの入院や入院患者への面会などにも、この「ワクチン・検査パッケージ」を適用することが考えられるとしている。

希望者全員の参加機会を担保する必要がある修学旅行や入学試験、選挙投票などの場面では、基本的な感染防止策を講じ、この「ワクチン・検査パッケージ」は適用すべきではないとしている。

国によっては有無で出入国などが制限される「ワクチンパスポート」と異なり、このパッケージがないと旅行ができない、県境を跨げない、航空機や鉄道の利用を拒否されるといったことは今の所行われる想定はない。また、これらの制限は現行の法律では実施することは難しい。

なお、この「ワクチン・検査パッケージ」適用に前倒しで、イベントは収容率や人数上限などの緩和が可能であるとしている。飲食店でも、一定の感染対策の下で、時間短縮要請や酒類提供などの規制緩和ができるとしている。医療が逼迫し、緊急事態措置が課せられた場合はこのパッケージが活用されない状況もありうるとしている。

集団免疫困難で”欧米寄り”にシフトか

今回の提言では事実上「集団免疫」の獲得を断念し、「ウィズコロナ」として人々の生活や社会経済活動を両立させるための提言と言える。欧米で広がる接種証明やワクチンパスポートの提示の義務化と比べると、共通点もあるが、「ワクチン・検査パッケージ」はワクチン未接種者への配慮をより重視した形だ。

ただ、このパッケージが導入されれば、ワクチン接種が旅行や出張などの社会活動において有利になることは言うまでもなく確実だ。海外旅行のためのワクチンパスポートとあわせて、旅行をするためにワクチンは極めて重要となりそうだ。

羽田空港第1ターミナル・北ウイング閉鎖

新型コロナウイルス感染症と経済をどう両立するか、経験したことのない疫病による深いダメージから回復し、新たな社会へ変化していくための転換点を迎えようとしている。新しいウイルスと共存しながら社会を立て直すために、今後さらなる議論が求められるだろう。