“ただの旅の代替手段”ではない、ANAのオンラインツアーへのこだわりを探る

コロナ禍の今、新しい旅行スタイルとして各社が注力しているのがオンラインツアーだ。通常の旅の代替手段として捉えられがちだが、オンラインならではの趣向を凝らしたツアーもある。

昨年からオンラインツアーに乗り出したANAセールスではこれまで、元プロサッカー選手の波戸康広氏の解説を聞きながらカタール遠征中の横浜F・マリノスの練習風景を見学するツアーや、客室乗務員が就航地のおすすめスポットを紹介するツアーなどを実施。通常の旅行ではなかなか出会えないような人との双方向の交流がウリだ。

2月にはシリーズ第4弾を開催。以前からANAグループとして、日本酒や焼酎を観光コンテンツ化して誘客する「酒蔵ツーリズム」に取り組んでいることから、宮崎県都城市の焼酎酒蔵を見学するツアーを企画。創業から100年以上の歴史を誇る、同市の老舗酒蔵「柳田酒造」と「大浦酒造」の協力を得て、週末の夜に開催した。

ツアーにはウェブ会議サービス「Zoom」のウェビナー機能を活用。各蔵元の職人が、酒蔵の施設や焼酎の製造工程を紹介する。参加者がZoomのチャット機能を通じて質問すると、職人がその場で答えてくれるというコミュニケーションの場もある。また、ツアー参加者の元には各酒蔵の試飲セットが事前に届くため、自宅で焼酎を楽しみながら酒蔵見学ができるのも特徴だ。ツアー後半には、蔵元直伝のおすすめの飲み方や、食事との合わせ方を紹介してくれるパートもある。

一人ひとりとのコミュニケーションを大切にしたいという思いから募集人数は当初30人としていたが、反響の大きさから最終的に50人に拡大した。

今回登場した柳田酒造ではこれまで、酒販店向けなどにクローズドな蔵見学は受け入れていたが、一般の人を対象とした見学ツアーの経験はなかった。同社の柳田正代表は、「小さな蔵なので、リアルでは一気に50人に来てもらうのは難しかった」と話す。蔵には急勾配の階段などがあり、移動にも注意が必要だが、オンラインでは足元の心配もない。声を張らずとも一人ひとりの耳に言葉がしっかり届く。参加者にとっても、リアルな場ではためらってしまいがちな質問もチャットで気軽に聞くことができるのはメリットだ。柳田代表は、「今後は海外向けにも展開していきたい」と手応えを感じた様子だった。

ANAセールスでオンラインツアーを担当する加藤梢太さんは、「通常の旅ではできない体験をオンラインで提供したいという軸がある」と商品造成へのこだわりを語る。ANAセールスでは今後、スウェーデンやベルギーの駐日大使館を見学するツアーや、機内食工場の総料理長と機内食の製造過程を見学するツアーを計画中。コロナ収束後も通常の旅行商品と並行して、オンラインの強みを活かしたツアーを継続的に打ち出していきたい考えだ。(現地写真︰ANA提供)

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