誰が何と言おうと、Go Toトラベルは悪くない【永山久徳の宿泊業界インサイダー】

移動制限によるリスク低減の段階はとっくに終わっている

羽田空港

そもそも緊急事態宣言において国民の移動を制限したのは、まだ感染者の発生していない地域があったことと、新型コロナウイルスに対する知見と医療体制が追い付いていなかったことが理由だ。日本全土で感染者が一定比率で存在するようになり、その増加ペースが平均的である以上、県境をまたいだ移動を単に制限する必要性はない。制限するべきなのは移動ではなく「特定の場面」だ。厚生労働省が提示している「感染リスクが高まる『5つの場面』」、すなわち、飲食を伴う懇親会等、大人数や長時間におよぶ飲食、マスクなしでの会話、狭い空間での共同生活、居場所の切り替わりを慎重に行う必要があるのであって、それは旅行とはイコールではない。既に、大人数のGo To イートは制限されているし、旅行においても個人旅行がほとんどであり、いわゆる団体旅行はほとんど復活していない。今動いている団体旅行は他人同士が参加する(ほとんど会話の無い)募集ツアーや、厳重な対策の施された修学旅行の代替の旅行などであり、「5つの場面」を想起させる旅行は少ないという事実にも目を向ける必要がある。制限すべきは学校でのランチや、職場での休憩所など、連日相手が入れ替わりながらノーマスクで近接する場面の制限であって、同じく厚生労働省が提案した「マスク会食」の方がよほど優先すべき対策なのだ。「マスク会食」には国民が冷ややかな反応をしたからといって、家族旅行の制限を何物にも優先させることが感染拡大対策になると考えるのはピント外れも甚だしい。

Go To トラベルを100%擁護するわけではない。25万人に1人とはいえ陽性者は発生しているし、従事者にも陽性者はいるのだからゼロリスクではない。対策を怠った例があることも承知している。ツアーバスの車内でおしゃべりしながら弁当を食べたり、旅行先で羽目を外したり、健康チェックを怠ったりしたことで、Go To トラベル利用者が感染してしまったケースがあることも事実だ。しかし、一般生活のリスクと旅行のリスクの差にはもはや差異は無い中で、Go To トラベルと第三波の間に相関関係を見出すことは余程のこじつけをしない限り私には不可能だ。問題なのは、このように”Go To トラベルキャンペーン=諸悪の根源”とイメージしてしまった国民、識者でさえ「それでも人が移動すればウィルスも動くでしょ?危険でしょ?中止すればいいでしょ?」で思考停止してしまうことだ。

ウイルスにゼロリスクはあり得ないことはとっくに理解していても、特殊な1のリスクを減らすことにより身近に存在する100のリスクを正当化しようとする防衛本能のようなものかも知れない。そうして安心した国民は「移動しない事で私はコロナには感染しない」と気を緩めて、混雑する近所の商業施設での行列に加わり、友人とのカラオケに興じ、知人との会食に身を投じるのだ。第三波対策はGo To トラベルを悪者にし、当面の厄介者を排除することでお茶を濁す結果になってしまうだろう。結果的にGo To トラベルキャンペーンを制限しても感染者の増加ペースは変化しないと予測できるし、問題となっている自殺者の増加にはむしろ拍車がかかるだろう。Go To トラベルはもはや観光事業者のものではなく、第一次産業まで含めた需要喚起策なのだから。その時、医師会や分科会はどう言い訳をするのだろう。

だから私は何度でもいう。「それでもGo To トラベルは悪くない」と。

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