止まらぬGo To トラベルの混乱、原因は「SNS」と「業界団体」【永山久徳の宿泊業界インサイダー】

日本旅行業協会(JATA)

ここで浮かび上がるもう一つの問題は業界団体のガバナンスについてだ。本来行政はこういったキャンペーンに対して枝葉末節に至るまで細かく定義し、遵守させることには長けていない。

抜け道を考えるのは業界内の人間であり、それを先回りして防止するのは至難の業だ。しかも今回のスピード感で、抜け道を一つ一つ封じ込めていくことには相当な労力を要しているはずだ。行政がSNS上の意見に過敏になってしまっているのもその努力の表れでもあるともいえる。しかし、それを防止する役目は本来業界団体側にあるのではないだろうか?旅行業にも宿泊業にも複数の業界団体がある。しかし、業界団体からキャンペーンの運用に関するガイドラインや申し合わせのような文章が発布されたとは思えない。コンパニオンのように感染防止上懸念のあるものにどういう制約を課して対象に含めるか、高額の免許取得を対象に含める場合の指針、行き過ぎたビジネス利用を防ぐための内規、顧客が不正利用しやすいシステムを持つ旅行業者への警告など、内情を理解し、抜け道を察知できる立場の業界団体であれば先回りして組合員に周知、遵守を依頼することも可能だったのではないだろうか。

違反業者や施設に対して、指導し、警告を与え、可能であればペナルティを課し、行政に告発するのも業界団体の役割だ。特に今は官民一体となって観光需要の回復に取り組むべき段階であるのに、制度設計から運用までをすべて行政に押し付けてしまっている構図にはなっていないだろうか?

業界団体が構成員に指針を示さず、モラルを持たない同業者を監視することをしない一方で、苦情と改善要求がSNSでダイレクトに行政に届くのであればもはや業界団体は必要ない。キャンペーンが混乱しているのは確かだが、その責を行政だけに求めていたのでは、この観光業界史上最大の社会実験からは何の教訓も得ることなく、今後に繋がるレガシーも残らず、単なる一過性のイベントに終わってしまうだろう。利用者と業界にとって少しでも良いシステムにするためには、残された時間の中でもまだまだ努力が必要だ。

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