水際対策をすり抜ける人達 虚偽申告、パスポート破りも

日本への入国や帰国の際の検疫要件が、新型コロナウイルスの新変異株、オミクロン株の影響で再度厳しくなった。

12月中の日本着便の新規予約を一時停止したほか、外国人の入国も停止した。一方で、隔離対象国・地域から「隔離なし」で入国している人がいるのも事実だ。12月某日に隔離対象国・地域から羽田空港から入国し、隔離なく公共交通機関で帰宅したグループに話を聞いた。

入国・帰国の際には、事前に14日以内の滞在国・地域などの情報を、厚生労働省のウェブサイト「質問票WEB」から入力し、発行されたQRコードを提示する必要がある。滞在国・地域が隔離対象の場合には背景が赤、対象外の場合にはグレーに色分けされ、一目瞭然だ。

空港ではこの他に、係員に滞在国を申告し、出発前に取得した陰性証明書を提示。検査を受け、結果判明後に解散、もしくは隔離対象国・地域への滞在歴があれば宿泊施設で一定日数隔離される。

このグループは、11月下旬に隔離対象となる国に入国し、ドバイやアブダビを観光。12月某日に隔離対象国・地域ではない国を経由し、羽田空港に到着。「質問票WEB」に乗継地を滞在国として入力した。この国には出入国をしていないものの、フライトがこの国からの直行便であることから、怪しまれることはなかったという。

嘘を見破るポイントは3つあった

検疫

この話を聞くと、空港検疫では虚偽であることを見破るポイントは、少なくとも3つあったと推測できる。

1つ目は陰性証明書の発行国だ。このグループは全員、出発の72時間以内に、出発地のドバイで陰性証明書を取得していた。メールに添付されたPDFを確認されただけで回収されなかったというが、発行地を確認していれば、”ドバイに滞在歴がある”ということは容易に確認できた。

2つ目は荷物のタグだ。このグループは、乗り継ぎ時に出入国をせず、羽田空港まで荷物をスルーバッゲージとしていた。荷物のタグには出発地と乗継地、便名が入っており、申告が虚偽であったことを見抜けただろう。

3つ目は最後の税関検査だ。実はここで1人が隔離対象国への滞在歴があるということを指摘されたというが、なぜか「11月」と言ったところ、あっさり通過できたという。もちろん出入国日が記載されており、14日以内の滞在であることは容易にわかった。

こうしていくつもの関門をくぐり抜けたこのグループは、3日間の宿泊施設での隔離なしに、利用が禁止されているタクシーで帰宅した。ちなみに、パスポートの出入国スタンプのあるページを破り捨てたというツワモノもいる。

位置情報を偽装する人たち

隔離の有無に関わらず、帰国後に待ち構えているのは最長14日間の自主隔離である。登録した自宅やホテルに入国した翌日から14日間、生活必需品の買い出しなどの一部の場合を除き、外出してはいけない。毎日、位置情報の確認は2回、自動音声などによるビデオ通話は1回かかってくる。

この14日間が最も難関だ。リモートワークが進んでいるとはいえ、会社員にとっては出社できないのが最大のネックといえよう。3日間や5日間に短縮されれば、容易に海外旅行に行けると考えている人もおり、旅行を諦める人を増やす一因になっている。

このグループは、方法を指南するウェブサイトやYouTube動画を参考に、位置情報をスマートフォンやパソコンで偽装できるアプリをダウンロード。位置情報を登録した自宅にし、自由気ままに1日2回の位置確認を行っている。厚生労働省は、ビデオ通話に期間中一度も出なかった場合に限って氏名を公表しており、何度か通話に応じていれば、公表されることはない。

これに対して厚生労働省に打てる対策は、スマートフォン以外の管理デバイスを人間に装着するしかないだろう。香港では入国者にリストバンドを装着して行動管理をしている。

検疫と旅行者のいたちごっこ、正直者がバカを見る状況は是正を

虚偽申告は事後であっても厳格に調べた上で、厳正に対処すべきだ。特に隔離を破るなど、一般市民にリスクを与えるような行為は、一定期間、パスポートの効力や新規発給を停止するなどの手段もあるだろう。

また、滞在地に関わらず全ての乗客を短期間、ホテルで隔離するというのも取るべき手段の一つであるように感じる。到着空港での検査結果を待機する時間は、一時的に陰性者と陽性者、到着後の隔離がある人とない人が混在する状況になり、リスクも大きい。このような状況下で旅行や出張で渡航、帰国する人に対しては、現在は国が全額を負担している隔離費用を自己負担してもらうことも考える必要があるだろう。

東京検疫所が公表している資料によれば、羽田空港から帰国・入国する隔離者の隔離施設となっているとあるホテルには、随意契約で1泊11,000円が支払われている。この他にも、バスでの移送や、隔離ホテルの運営にかかる費用を鑑みれば、相応の負担を求める必要があるように感じる。自己負担であれば、ホテルの選択肢も、従来のビジネスホテルのみから、シティホテルや高級ホテルにも増やすこともできるかもしれない。現在は、ネット回線の速度が遅いホテルに機械的に割り振られ、仕事にならないという声もある。

岸田政権はオミクロン株の確認後、迅速に入国制限を強化した。読売新聞が実施した全国世論調査では、全世界からの外国人の新規入国停止を「評価する」と回答した人は89%に達したといい、支持する世論の声も大きい。国内の新規感染者数は少ない状況が続いていることから、飲食店や旅行産業には徐々に活気が戻ってきている。水際対策の穴を一刻も早く塞がなければ、回復途上の内需すら、さらなる打撃を受けかねない。(写真はいずれもイメージ)