それでも「Go To キャンペーン」が必要な2つの理由【永山久徳の宿泊業界インサイダー】

(2)感染拡大防止と観光再開は二者択一ではない

以前、本コラムで「『旅行しても良い』というムードは自然には発生しない。ムードが変わるのを待って実施するのが『Go To キャンペーン』ではない。逆にムードを変えるために不可欠なのが『Go To キャンペーン』なのだ。」と書いた

感染者数が増加傾向に転じた現状でも、職場や学校、商店や飲食店はむしろニューノーマルに向けて日々着実に経験値を獲得している段階にあり、自粛や閉鎖に逆戻りはしている訳ではない。しかし、日常生活の延長であるはずの観光に関しては数ヶ月前から時が止まったままの状態だ。おっかなびっくりでも良いのでどこかで時計を動かす必要があった。我々にとって遅すぎたタイミングが今だという事だ。

もちろん地域差はある。むつ市のように観光施設を閉鎖して外からの観光客をブロックすることで市民を守りたい行政があっても良い。医療体制の脆弱な離島や辺境では自衛という選択は妥当だろう。鎖国を選んだ行政はコロナ対策交付金を観光事業者に手厚く配分すれば済むことだ。旅館業法上の問題などもあるが、来訪者に居住地や行動歴、体調などにより制限を設ける自治体があっても不思議ではない。守るべきもの、進めるべきものはそれぞれが決断すれば良いのだ。これは住民や行政だけでなく、観光事業者にも言えることだ。ゴールデンウィークの自粛要請の中、地域や従業員の安全を第一に休業した施設もあれば、地域の反対を押し切って営業を続けた施設もあったのだから、キャンペーンがあるからといって信念をねじ曲げる必要はない。

Go To トラベルキャンペーンの実施は、某知事の指摘するような、アクセルとブレーキを同時にかける行為ではない。我々は既に日常生活においてブレーキから足を離して少しずつアクセルを踏み始めている。なのに、サイドブレーキを効かせたままなので思ったほどは前に進まない。そのサイドブレーキを解除して、ニューノーマルの日常をより円滑にしようという施策のひとつがGo To トラベルキャンペーンなのだ。慎重派の意見は重く受け止めるが、「サイドブレーキを解除した途端、全力でアクセルを踏んだら事故が起きるじゃないか」という理論では何も前には進まない。Go To トラベルキャンペーンは少なくとも半年間は実施される。その間に自身の地域の状況、観光に行きたい地域の状況を客観的に判断して、タイミングを見計らって旅行に行けば良いのではないか。その判断まで国に委ねる必要はないだろう。

もちろん、Go To トラベルキャンペーンに手放しで賛成している訳ではない。特に観光事業者から見た場合、その制度設計にはいくつかの矛盾や問題もある。次回はキャンペーンの運用方法の発表を待ち、視点を変えて論じたい。

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