東海道新幹線にリモートワーク用車両 ビジネス客・非ビジネス客分離で「音問題」解決?

ビジネス客と旅行客が混在する日本の大動脈である東海道新幹線に、10月1日から「ビジネスパーソン向け車両」が誕生する。その名は「S Work車両」。「のぞみ」の7号車を「ビジネスパーソン向け車両」として発売し、座席で気兼ねなく仕事をしてもらおうというものだ。「新幹線(“S”hinkansen)でシームレス(“S”eamless)に仕事(Work)ができる車両」が名前の由来だ。

JR東海は「S Work車両」利用者への案内として、「パソコンのキーボード音等、仕事を進めるうえでの最低限の作業音はお客様同士相互に許容いただき、電子音や音声が発生する場合はイヤフォン等ご活用ください」、「Webミーティングは、ヘッドセットやマイクを活用して小さな声でお話しいただくことやチャット機能をご活用いただくなど、まわりのお客様へご配慮いただくようお願いします」「快適なワークプレイスとしての環境を維持するため、お客様同士でのご歓談や座席の回転はお控えください」としている。

実は東海道新幹線では以前から、客室内での通話は禁止されていなかった。しかし、JR東海によれば利用者からはこれまで、「パソコンの操作音が気になる」といった声や、逆に「周囲の人の声が気になって仕事に集中できない」という声が上がっていたという。そこで、車内で仕事を進めたい人には7号車を使ってもらうことにより、仕事をする人・しない人双方にとって過ごしやすい車内環境を整えようというわけである。「S Work車両」は「EX予約」「スマートEX」のみで予約可能で、予約画面も他の指定席と分けられている。料金は普通車指定席と変わらない。窓口や券売機では予約できないようになっているため、「のぞみ」の7号車は必然的に「S Work車両」の希望者だけが利用することになる(年末年始等は除外期間となる予定)。

▲EXサービスの予約画面

全ての「のぞみ」に設定される「S Work車両」だが、このうちN700Sが充当される列車では、ビジネス用便利グッズのレンタルサービスも展開。膝の上でパソコンを快適に利用できるクッションや、パソコン画面の覗き見を防ぐ簡易衝立、小型マウス、充電ケーブル(USB Type-C)などを車内に用意し、希望者に貸し出す。利用できるのは新横浜〜京都駅間で、パーサーに声を掛けると無料で借りられる。

N700Sではこのほか「S Work車両」の展開に合わせ、ビジネス利用向けの改良が2つ進められる計画だ。まず1つめは、7・8号車を対象とした新しいWi-Fiサービス「S Wi-Fi for Biz」の導入。既存の「新幹線Free Wi-Fi」のアクセスポイントを2倍に増やして通信容量を増強し、ビジネスでも利用しやすいように暗号化方式の強度を上げるほか、利用時間の制限も撤廃する。また、ポータルサイトからは、電子雑誌の読み放題サービス「dマガジン」や、ビジネス動画サービス「グロービス学び放題」などが無料で利用できるようになる。10月から順次導入し、対応車両には座席ポケットにリーフレットを設置。今年末までには運用中のN700S全編成に導入できる見通しで、今後、他の号車への拡大も含めて検討していくという。

▲「S Wi-Fi for Biz」のポータルサイト

2つめは、7・8号車間のデッキにある喫煙ブースを改造し、打ち合わせなどに使えるブースにするというもの。こちらは2022年春以降に開始する予定のため、まだ少し先の話となる。

このほか、乗車前後を含めたシームレスな仕事環境の提供という観点で、東京、名古屋、新大阪の各駅では、一部の待合室に半個室タイプのビジネスコーナーを順次設置。ベンチにはコンセントポールを整備していく。これらは無料で利用できるが、12月上旬からは有料の個室形ワークスペースなども「EXPRESS WORK」として展開する計画だ。

キーボード音、子どもの声など、定期的に取り沙汰される新幹線の車内環境問題。「S Work車両」の登場が解決の糸口となるだろうか。

▲便利グッズをレンタルできるN700Sの「S Work車両」

▲N700Sの「S Work車両」で貸し出すグッズ一式

▲既存の「新幹線Free Wi-Fi」(左)と「S Wi-Fi for Biz」の速度比較(品川〜新横浜間で計測)

▲東京駅の待合スペースに設置された半個室タイプのビジネスコーナー

▲東京駅の待合スペースに設置された半個室タイプのビジネスコーナー。ブースのアルミ部分は700系のアルミ素材を再利用している

▲待合いスペースのベンチに設置されたコンセントポール